続・石に魅入ると世界の全部が断然新しくなる | 09:49 |
<石に魅入る・4>
修行は行を修める。「行」は向こう側へと行くためのシステム化された行為。
修験は「験」を修める。「験」は超人的能力。この力を使って加持祈祷したり、向こう側を旅する。
向こう側へ行くぞ、行くぞ、必ず行くぞ、という呪文があって、
「ギャティ ギャティ ハラ ギャティ ハラソ ギャテイ ボウジソワカ」という。
行を修めてきたたくさんの人たちがいたことを思い出すと、心にゆたかさの潮がよせてくる。
若かったころは、なにかの間違いでここで暮らすはめになった異星人のようだった。
自分が望んだわけではない星にいることが不満だった。
いつだったか自分は日本人ではない、アジア人であることを発見して、世間に対して強くなれた。
いま、心のうちなる豊かさに身をまかせると、ただの人であることが嬉しいことであることがわかる。
「石に魅入る」とはそういうことだ。
<石に魅入る・5>
時代の雰囲気に押し流されるところに流行が生まれる。いったん流行の波にのってしまうと、
それが勘違いでも正しいように見えてしまったり、不必要でも必要欠くべからざるものに思えてしまう。
かつて週末に超人的スケジュールで海外旅行するのが流行った時代があった。
ボーナスはたいてブランドもののブーツやバッグを買うのが流行した時代があった。
昨今の流行では、プチ旅行やネットで話題のレストランやカフェ、ギャラリー巡りがおしゃれに見える。
これらはすべて対社会的な行為で、精神世界的な意味合いで「石に魅入る」のは、これらと対極にある。
一時的に世の中から離れる。社会的・世間的な自分を脱ぐ。静謐さに憩う。
みやび・はなやぎ・わび・さび、そういうものを入り口に、向こう側が開けてくるのを待つ。
石がふいに昨日までとは違う顔を見せる。あるいはほほ笑む。そうやってそこから新しい一歩が始まる。
(写真は日本翡翠原石白 130mm, 2.4kg, ¥36,000)