錬金術の基礎知識・すべては辰砂あってこそ■辰砂結晶の写真 | 10:09 |
<錬金術の基礎知識>
なにごとであれ馴れない領域には基礎知識が不可欠だ。
錬金術は「賢者の石」という超触媒を使えば鉛・銅などを金に変換できるとする神秘思想的なアイデアで、
エリアーデによれば、ここには発酵の原理が応用されている。
鉛・銅は未熟な卑金属で金は金属が成熟した姿だ。
大地に眠るこれら卑金属は神のパワーによって発酵を促進される。
大地のパワーは女神信仰以来の伝統で赤い色をしていて、辰砂に凝集されている。
だから人工的に辰砂の巨大結晶を作って卑金属に作用させれば、発酵が促進されて金がえられる。
そこで辰砂の原料である硫黄と水銀が重視された。
錬金術のかなめは現代科学と違って、実験者に神・創造主と同じような知能と人格が要求された点にある。
人間も卑金属と同じように未熟な存在なので、「賢者の石」を触媒として用いれば超人に変身できる。
こうして錬丹術が発展し、古代中国では完成した人間は不老不死であるとされ、
大人(たいじん)とか真人(しんじん)とよばれた。
不老長生をめざす錬丹術(いまふうにはアンチエイジング・テクノロジ−)は
インドではアユルヴェーダやシッダ医学、古代中国では漢方のもっとも内奥にある。
<錬金術の基礎知識>
不老不死の薬物「辰砂」には大別すれば以下の用途がある。
[1]辰砂は水銀と硫黄の化合物だから硫化水銀ともよび、ここから水銀を分離できる。
水銀にはアマルガムといって他の金属と混合しやすい性質がある。
これを利用して採集した金の精度を高められるし、銅製品などを金メッキできる。
[2]辰砂は滅菌作用が高い。遺体にまぶせば腐敗を遅らせることができる。
赤を大地のパワーの色とする呪術と滅菌作用が重なって、古墳時代にはもがりにつかわれたり、
棺 (ひつぎ)に敷いたりした。
[3]辰砂の赤は辟邪(へきじゃ・魔除け)の色、運気増強の色とされ、神聖視された。
辰砂を漆で溶いた塗料・朱漆は神聖な場所をいろどり、宗教儀式の器の塗装に用いられた。
[4]鉱物の辰砂は水に溶けない不溶性なので摂取しても毒性は少ないとされる。
漢方・アユルヴェーダでは、あまたある石薬のなかで最高とされている。
前述したように錬金術・錬丹術では最高無二の秘薬だった。
[5]辰砂は貴重な鉱物で金と同じように貯蓄され、
貨幣代わりに使われた。財産価値の高い鉱物だった。
辰砂は西洋史、東洋史においてともに重要な鉱物であり、
ことに精神の発達史を研究するうえで無視できない。
(写真は上が中国産辰砂結晶、下が錬金術のもうひとつの秘薬・鶏冠石・リアルガー。
辰砂は辰州で採れるからこの名がついたと解説されているが、
筋としては逆で龍のパワーの砂が採れるから辰州とよばれるるようになったのだろう)