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姫神がいった。みなさんを祝福してひとて舞います 08:21
モクレン
<子天狗玄太> 
「みなさんを祝福してひとて舞います。玄太にはとても感謝しています。
みなさんの好意をありがたく思っています」姫神が立ちあがった。
大きな筒袖の着物、ひだのたくさんついた丈の長いスカート、
着物のうえにはベスト様で袖のない上着をはおり、
首には勾玉と管玉でむすばれたネックレスを着け、
パシュミナのストールをもっと長くしたような天の羽衣(ヒレという)をかけていた。 
新潟県糸魚川市の天津彦神社の所蔵という翡翠の女神、ヌナカワヒメの彫像に似たいでたちだった。 
おごそかで陶然となるほどに美しかった。
着物の色は明るい朱にみえた。ロングスカートはストライプ模様で赤と複雑な色調の青緑が
交互にあわせてあるようだった。けれど、色彩を見定めようとすると色が変わり、
きらきらと霧雨のように光るオーラの輝きとあいまって、
上着もスカートも、日本の伝統色で、これはこの色というふうに特定しがたかった。
雅楽の雅な音色が高く響き、雲の上へと連れて行かれる気分がした。
女神は 東からの風となり、西からの霧雨となった。陽射が戻り壮大な虹がたった。
そうやって手振りによって光が紡がれた。老齢の梅の木が何本も植えられた梅園が織りだされ、
それぞれに紅白の梅の花を咲き別けて、酔い痴れるほどに強く花の香りがみちた。
 彼女の身体は宙に浮き、羽衣をなびかせて木々のあいだをすべるように舞った。
やがて早春の雪のように花弁が舞いちり、花弁のひとつひとつが銀色の光に変わった。
まばゆくて見ていられないほどの光の洪水のなかで、
女神は小さなたつまきのようにくるくるとまわるのだった。
 
彼女が視界の左端へと移動したとき、背後に胡座を組んだ玄太の姿が目に入った。
彼は両肘を高く揚げ、石笛を唇にあてていた。雅楽の音は玄太の石笛だった。
あのように小さな穴一つで横笛の吹奏同様の音楽を奏でることが驚異だった。
真冬の夜空の流れ星のようなキリキリと澄んだ音が女神の舞いに和していた。

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■モルダバイトは巨大隕石の衝突によって生まれた宝石 10:03
モルダバイト
<モルダバイト> 
きょうの鉱物四方山話はモルダバイト。モルダバイトはインパクトガラス(隕石衝突時にできる天然ガラス、
テクタイト)の一種で、パワーストーンとしての登場の仕方もインパクトがあってセンセーショナルだった。
「モルダバイトは、欧米でのパワーストーン流行時に<モルダバイト・フラッシュ>なる言葉をうんで
一躍有名になった。モルダバイトを持つと、あまりのパワーの強烈さに身体に震えが走ったり、
手のひらを熱い風が吹きぬけたり、ヒーリング能力や予知能力に突然目覚めたり、
ついには幽体離脱してしまう人が続出したので、そうした現象をさして
<モルダバイト・フラッシュ>とよんだのだという」p145(『癒しの宝石たち』北出幸男、青弓社、2007)。
モルダバイトがよく売れていた時代には、チェコの鉱山主から1−2キロ分の原石を毎年買って、
サムネールボックスに入れたり、ルースを作ったりしていた。
いまもその時代の名残のルースがたくさん残っている。2-19-2


モルダバイト
<モルダバイト> 
モルダバイト・フラッシュのような現象は、そういうことを知らない人たちや、
モルダバイトに始めて触れるという人たちにも起きていた。
だから暗示による流行現象というだけではない。
ショップに来て、パワーが強くて長居できないという人もいたし、
モルダバイトに触れていると気分が悪くなるという人もいた。
彼らは石にネガティブな要素を感じるからではなく、無意識的にパワーを感じる感覚と、
それを否定する内心での葛藤が気分の悪さとなっているように見えた。
こうした現象は彼女たちが繊細だからというわけではない。
説明するにはたくさんの言葉が必要だろうし、知らない人との付き合いは好きではないので放っておいた。
石や樹木、風光明媚な土地のパワーに触れて、そこから精神世界的に自分を育てていける人は多くはない。
その時代、モルダバイトは試金石のようだった。(写真のリングはいまは製作していません)

モルダバイト
<モルダバイト> 
モルダバイトの基礎知識。モルダバイトは隕石衝突の二次生成物、テクタイトの一種。
大きな隕石が地表に落下・衝突すると、ときに原爆よりも大きな破壊力をおよぼす。
原始地球が火の海だったのも、連続して落下してくる隕石と、
原子力発電同様の地殻の原子変換による熱エネルギーのせいだったという。
隕石の衝突により落下地点は瞬時に熱地獄になる。
地表物質の大部分はケイ酸質なので、それらが溶け、凝固して天然ガラスになる。
こうしてテクタイト(インパクトガラスともいう)ができる。
モルダバイトは透明で松葉色をしていることが多く、表面には細かな皺が刻まれている。
この皺は溶融した地表物質が上空へと吹き上げられたさいに、空気によって急速冷却されるためという。
学説ではモルダバイトは1500万年前、ドイツ南部に衝突・爆発した隕石が原因で
大気圏の外へと飛散した溶解物が250kmも空を飛んでチェコのモルダウ川流域に降り注いだ結果生じた。
猿との共通祖先から人類が袂をわかつより以前の出来事だ。4-19-1
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■<鉱物四方山話>ダイオプティース、ブルートパーズ、アクアマリン 08:46
ダイオプティース
<ダイオプティース> 
緑の鉱物たちの色彩の多様性には驚いてばかりいる。他の色に比べて緑色にはより親しみを感じる
ということもある。入手しやすい鉱物だけでもたくさんの緑色があった。
クリソプレース、トルマリン、マラカイト、ウバロバイトなど、なかでもひときわ鮮やかな緑色が
コンゴ共和国(カタンガ州)産のダイオプティースだった。
最初この石は知り合いのイタリア人が運んできた。
日本からではアフリカは遠いがイタリアからだと近い。
彼は山中の鉱山にこもってダイオプティースを掘った。下山したら動乱の最中で、
町中を銃弾がとびかっていた、などと言っていた。
購入した原石のなかでとびっきり可愛いのは、そのうちアクセサリーに加工しようと取りのぞいておいた。
それが残っていて、いまも植物のような色合いを失っていない。
古代の人には鉱物が色あせないことが不思議だった。かれらはそこに不滅のパワーをみて感嘆した。
こういうことをどうして現代人は忘れてしまったのだろう。 2-19-1


ブルートパーズ
<ブルートパーズ> 
ブルートパーズの小石は海辺の転石風だが、きっとバレルという機械でみがいてあるのだろう。
ひょっとしたら天然ものかと思ってもみる。
糸魚川の業者のところへいくと、ガランガランと回転する円筒形の容器のなかで、石が磨かれている。
海岸なら100年かかるところを機械なら1ヶ月かけずに研磨の過程を模倣する。
バレルは音がうるさいので町なかでは使えない。中国のシンセンの研磨工場へいったら
洗い桶のような形のバレルがあった。中央に全体をかきまぜるためのスクリュー風の棒が付けられていて、
研磨用素材と研磨剤としてのメノウのさざれ石が目一杯入れられていた。騒音が気にならない静かさだった。
あるときアメリカの雑誌に家庭用バレルの広告をみて買ってみた。
子供のおもちゃみたいなのが送られてきた。山の家に置いて、留守宅で何日間もモーターを回すのは
不用心かと思って使わずじまいだった。
透明だったり半透明の石には奇妙なまでに心惹かれるものがある。
遠い昔のぼくたちはそんなのを見つけると、光にかざしてしげしげと眺めたり、
ちょっと嘗めたりしたんだろう。
ていねいに磨いてさらに美しくしたものを恋人の手にそっと握らせもした。2-19-1


アクアマリン
<エッチドアクアマリン> 
15-20mmほどの蝕像アクアマリン(エッチドアクアマリン)がだいぶ残っている。
もとの形がどういうふうだったか想像もできないほどボコボコに腐蝕(エッチング)されたもので、
熱水に溶かされたとか、酸による蝕像といわれている。
サムネールボックス(3cmキューブの透明ケースに入れた鉱物標本)コレクションを維持していくために、
買えるときになるべくたくさんを買っておかなくてはならなかった。
鉱物標本は工場での量産品と違って一度きりの出会いということが多い。
だから買えるだけ買って置いておく。賢明な方法ではないがしかたがない。
そんなふうにしてブラジル人のディーラーから袋詰めのエッチドアクアマリンを袋ごと買った。
透明度が高く淡い水色をしている。腐蝕前はさぞやきれいな結晶だったことだろう。
てのひらにざらざらとこぼしてルーペでみると、クールでスタイリッシュな見栄えに賛嘆する。
こういうのを18Kゴールドの枠にいれてペンダントにするのが流行った時代があった。3-19-1
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<子天狗玄太> 玄太と姫神は氷室に避難していた 10:21
カルサイト
<子天狗玄太> 
氷室の扉にはかぎがかかっていなかった。
開いた扉から入った光のなかであぐらを組んで座わるゲンタが見えた。
ゲンタの父はぼくを押し退けるようにして氷室に入って、ゲンタを抱きしめた。
ふいの隠遁を怒りもせず説教もしなかった。
彼はゲンタを抱き締め、身体を放してから無事でよかった、と言った。
それからぼくに向かって「山本さんにも見えるようにしてさしあげましょう」と言った。
8畳ほどの板張りの部屋の上座に座布団をしいてゲンタがすわっていた。
となりにはショートパンツでTシャツ姿、髪を高い位置でポニーテールに結んだ少女がいた。
彼女は乳白色にひかる淡いもやにつつまれていた。
ゲンタの父は座布団の上に正座している彼女の膝に触れて平伏した。
そして彼はぼくにもそうしろと目で合図した。彼女が姫神だった。
Tシャツは藤の花の色をしていた。半袖で両肩の部分が切り抜かれていて色白の肌が露出していた。
催眠術にかかったかのようだった。ぼくも彼女の膝に触れて平伏した。
「おかしな格好をしているとお思いですか?」姫神が標準語でいった。
平安時代風言葉遣いではなかった。鈴がなるような透き通った声だった。
「いえいえ、すごく可愛い、いや、とてもお似合いです」仰天することが多くてしどろもどろだった。
「ゲンタと同じように身軽になりたかったのです」
「ごめんなさい、黙って隠れて」ゲンタが父に言った。「女神様をお護りしたかったんです」。
ゲンタはぼくに向かって「よくここがわかったね」と言った。
「蜘蛛の巣を取りに行ったことがあっただろ、それで思い出した。怪我はしていない?」
「だいじょうぶ。あいつには思い切りかみついてやった。それで逃げることができた」
 姫神が言った「わたしのためにみなさんに心配をおかけしました」
 ゲンタの父が言った「わたしがいたらなかったばかりにご不便をおかけしています」
「こういう冒険って楽しい。それにゲンタがよくしてくれています」姫神がこたえた。
父はゲンタにこれまでのいきさつを語った。同胞相手のような口振りだった。
それからしばらく姫神の面倒をみてくれるゲンタに頼んだ。
姫神は強い、このかたおひとりでも行者は力が及ばない。
けれどゲンタがいればもっと安心できる。
(写真はピンクカルサイト、無染色だろうと思っている)
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<鉱物四方山話> 日本翡翠と翡翠類似石  18:05
ヒスイ類似石
<翡翠類似石> 
ヒスイ原石採集が趣味の知人に翡翠類似石をまとめて送ってもらったことがある。
なんでも彼の家の庭はヒスイ海岸からの石ころで玉砂利を敷き詰めたかのごとくになっているとの話だった。
波打ち際で海水にぬれた石はきれいにみえる。
日差しをあびればそれらはきらきらと輝いていっそう美しくなる。
なのに家に帰って乾いた石をみると、木の葉を紙幣と思い込んでいたかのごとく、
変哲のないしろものになりはてている。
届いた石は翡翠に似た白っぽさであってもそれぞれに違う。
ひときわ透明度が高い白色半透明は石英で、軽くてざらついたのは石灰岩、
人肌に似てややきめが粗いのがロジン岩なんだろう。
その他、アルビタイト、ケイ灰岩、デイサイト、流紋岩と、岩石は識別しようにも知識がたりない。
水道水でぬらした石たちに見入っていると寄せては引く波の音がきこえてきた。3-19-1


黒翡翠
<日本翡翠> 
鉱物標本を扱うようになって以来ずーっと、
鉱物や宝石原石の産地があまりにピンポイントであることを不思議に思っている。
たとえば商品価値のある翡翠原石は日本の糸魚川地方、ミャンマーとグアテマラ、
ロシア(イタリアも?)の一部でしか採掘できない。
鉱物が結晶するにはマグマや地殻中の空洞・間隙に生じる地下水やガス、または付加体のなかに、
原料物質があることが必須だが、結晶化は物質にとって気難しい作業であるらしく、
原料物質の濃度、環境の温度・圧力の条件を満たさなくてはならず、
触媒も必要ということがあるかもしれない。
それに地球は人間が想像できないほどに大きい。人類は地表の上っ面を探ることができるだけ。
かつて地表近くにあり、風化したり断層などの地殻変動で消えていった鉱物もあるだろう。
100万トンの高品質の翡翠が埋もれていても、地下10kmにとどまっていたらあるかないかもわからない。
そんなふうだから翡翠をはじめ、いろいろな種類の鉱物の産地はピンポイントな土地に限定されてしまう。
そうなんだと想像できても実感に結びつかない。3-19-3


水中蓮華
<西蔵天珠水中蓮華> 
泥田にあっても蓮は汚泥にけがされることなく、清純無垢な花を咲かせる。
同じようにジービーズの水中蓮華は、世間の思惑に染まらずに自分の意図をつらぬく象徴とされる。
それは妨害や中傷をのりこえて自己実現していく力を与えてくれるとされてきた。
この水中蓮華紋が、自然のいたずらなんだろうけれど、
日本翡翠原石に天然の模様として現れているのを発見した。
大事にしていたのだけれど、店に持っていったり、自宅に保管したりしているうちに、行方不明になった。
とても残念に思っていたのが、さきごろひょんなところから出てきた。
台湾や香港の好事家なら、縁起をかついで数万ドル払うかもしれない、
などと妄想するに足る貴重品で、いまは山の家の本箱の一角に、
小型ジービーズの蓮華紋といっしょに保管している。 3-19-2
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<子天狗玄太> 玄太との間には宿命の釣糸が張られていた  10:18
田舎道
<子天狗玄太> 
玄太のことを思った。彼はぼくにとって何なんだろう。
異種族との遭遇というようなところからほど遠い。
あかの他人のような気持ちになれず、幼いころの息子が幼いまま戻ってきたようなところがある。
ひとりで心細い思いをしているのではないだろうかと思う。とんでいって抱きしめてやりたいと願った。
そのうち彼との間に張られた釣糸のようなものを感じられた。
その糸がふるえてふいに彼がいるであろう場所がわかった。
識域下からかつて彼と交わした話が浮きあがつてきただけなんだろうが、
釣針の先で小魚が針をつつくように彼の居場所がみえた。
玄太に連れられて蜘蛛の巣をとりにいったことがあった。
あるとき玄太がランドセルから二つ折りした黒い厚紙を出した。片側に蜘蛛の巣模様が描かれていた。
「上手に描けている。本物そっくりだ」ぼくがいうと、
「違うよ、本物の蜘蛛の巣だよ」といった。
でもそんなふうに蜘蛛の巣が採集できるわけがなかった。
それでも玄太はそれを天然の蜘蛛の巣だといった。
それでそれじゃあ取りに行こうということになった。できたての蜘蛛の巣をさがして陣馬街道を歩いた。
蜘蛛の巣のすぐ後ろに紙をあてがって、息をぷーっと左右に上から下へとふくと、
蜘蛛の巣は押し花のように画用紙に張り付けられるのだった。
天狗にしかできない技なのだと彼はいった。
それに蛛の糸は劣化しやすいので蜘蛛の巣コレクションは1週間ほどしか持たないのだとも。
その途中、道路脇の切り通しの石組みに氷室の扉を見た。子供が出入り口に使うような小さな扉だった。
「内緒のことを教えようか、これはおいらと龍太との隠れ家なんだ」そのとき玄太はいった。017/3
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<子天狗玄太> 不動金縛り法には致命的な欠点があった  10:20
カワヅサクラ
<子天狗玄太> 
不動明王の名を聞いて先日の絵描きさんの話を思い出した。
彼は不動明王と結縁した者には不動法は効かないといった。
来世もその次の世も後生にわたって不動明王は結縁した者を守ると絵描きさんはいった。
その話をゲンタの父にすると絵描きさんの風体を知りたがった。
確かにあの日の絵描きさんはいつもと違っていた。
ぼくは絵描きさんと信じて別人と話していたのかもしれない。 
喉がかくれるほどに長い純白の髭があって、髭は筆の穂先のような形をしていた、とぼくは告げる。
ゲンタの父は老人には会話の途中で何度も右手で耳朶にさわる癖がなかったかときく。
そういう癖もあったようだ。
ゲンタの父は雷に打たれたみたいに目を見開いた。その場で土下座して地面に頭をつけた。
「お師匠です。お師匠がいらして教えを残していかれたんです。ありがとうございます」と彼はいった。
いささかの事情があって、ゲンタの父は師匠から破門された。もとのお山では暮らせなくなって、
高尾山に移転してきた。そんなふうにぼくに説明した。
大威徳明王の修法をするに精進潔斎して験力の通りをよくしなくてはならない。自分はその修行を急ぐ。
その前にゲンタと姫神をさがさなくてはならない。
天狗が足跡を消すと銀狐も追えない。
他の天狗衆に訊くなどして探していくより方法はないとのことだった。
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<子天狗玄太> 玄太の父は呪術を破られて悄然とする  08:45
道
<子天狗玄太> 
岩船神社の拝殿のまえの自然石を雑に組んだ石段に玄太の父が座っていた。
黒いジーンズに黒っぽいシャツ姿で、背中を丸めて悄然としていた。
銀狐が呼びにきたのだった。
2階の北側の部屋でホームページ用のコメントを書いていた。銀狐が不意に姿をあらわした。
彼は後ろ足をおって座り、稲荷と同じように前足をたてて正面からぼくを見た。
だから玄太の父が呼んでいるのだとすぐにわかった。
「お呼びたてしました」と彼が言った。
「いいえ、構いませんが何事ですか?」。不吉な予感に脈拍があがった。
「結界が破られたのです。まさかそこらの行者ごときに破られるとは想像もしていませんでした」
悔悟することこのうえないといった表情だった。
ぼくは結界についておぼろな理解しかない。「それで女神さんは?」
「姫神はいません。銀狐を偵察にだしたんです。行者は彼女を誘拐していません。呪縛もしていません。
玄太といっしょに姿を消してしまったんです」
彼に先導されて拝殿の裏に回ると、本殿への渡り廊下の羽目板の一枚が地面におちて倒れていた、
もう一枚は壁から外れてかしいでいた。
そこから廊下にあがった。横幅1メートルあるかなしかの廊下は
塵こそ積もっていないもののうつろでもの寂しかった。
床板の1枚が割れて割れ口が地面に落ちていた。
本殿は入れ子になっていて、老朽化した小さな社が本殿の外観の内側に囲われていた。
社の扉はあけはなたれ、直径20センチほどの白銅鏡と榊立てが床に転がっていた。
玄太の父は通路のほぼ中央に記された黒い染みを指差した。玄太がここにいて行者と争ったあとです。
この血痕は行者のものです。天狗はたとえ切られても血痕を残さないのです。
きっと玄太は彼なりに姫神を心配して神社を見張っていたのでしょう。
けれど玄太はまだ幼い、彼の力では行者にかなわない。どうしているか心配している次第です。
彼は結界がいかなるものかを語った。今回のものは不動金縛り法の応用編だった
。呪術は呪具を使うこともあるが、大部分は施術者の想像力のもとに、印を組み、
真言をとなえることで進行する。定められた所作によって金剛杭を四隅にうち、金剛索(さく、縄)を張る。
かく張られた結界は工事現場の立ち入り禁止を示すロープの囲いのようなもので、
目には見えなくても霊的実体として存在するようになる。そしてその管理を不動明王に託す。
これを破って中に入ろうとする者は、不動明王の法力によってその場で身体が動かなくなる。
侵入者は見えない力の気配への畏怖のゆえに、その場から退かざるを得なくなる。
でもそれがいとも簡単にそこらの行者ふぜいに破られた。
「原因を解いで行者を組み伏せないことには天狗の名折れになります」彼は言った。
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<子天狗玄太> 玄太が行者と戦って敗れる  08:43
梅の花
<子天狗玄太> 
姫神のもとを辞した後も、玄太は神社から立ち去りがたくて、
境内の杉の老木の枝に座って拝殿につづく本殿をみていた。
父親が引いた結界が青白く光る縄となって神社を囲んでいた。
杉の枯れ枝がバサッと音をたてて落ちる。別のどこかで樹木の幹がきしむ、
そういう音が重なり積もって夜が更けていった。
そうやって玄太は行者装束の男が拝殿の前に立ったのを見た。
男は声だかに経文をとなえた。右と左に身体をむけて印を結び真言を口にした。
玄太は結界に触れないよう上空から姫神を訪ねた。
けれどこの侵入者は結界を破り、拝殿の扉を開けて中に入っていった。
侵入者は案の定、要注意人物の行者だった。行者は自宅道場に護摩壇を築き姫神の召喚を企てていた。
姫神を呪文で縛るなら意のままに操れる。なのに行を深めても途中でなにものかに遮られてしまう。
姫神の姿を捕捉し得たと思っても、束の間のことで姿がゆらいで御簾のおくに隠れてしまう。
行者はごうをにやして、こうなれば神社に押し入ってご神体を奪うより仕方がないと思いいたったのだった。


<子天狗玄太> 
玄太は侵入者が誰であるかを知らなかった。
それでも拝殿と本殿を結ぶ廊下で行者を背後から突き飛ばした。
行者はよろめき、ふりかえった。その腹を思いきり殴った。
けれども大人に対する子供の腕力では、倒せはしなかった。
「何者ぞ?」行者が問う。玄太は答えず、頭から行者にかかっていった。
行者は玄太の頭をかかえて投げ飛ばし、とっさの判断だったのだろう、塗香を振りまいた。
丁字と樟脳の混ざったにおいに玄太がむせた。
「これはこれは、なぜ子天狗がここにいる? あの結界はおまえが敷いたのか? そうではあるまい」
行者がどなった。「そうか、あの結界は天狗のせいか、不動の縁者のおれを不動の術で縛れると思ったのか、
ええい、焼き殺してくれる」行者は不動火炎の術で玄太を焼こうとした、
玄太は被甲護身の印を組んで自分を氷柱に変えた。けれど玄太の幻術の腕は未熟だったし、
喧嘩のやり方もしらなかった。せめてあと5年歳をとっていたなら、
修験の行者に負けることはなかったが、いかんともともしがたかった。
玄太は腹を蹴られ、倒れたところをさらに蹴られ、首をつかまれ頭を殴られた。
はがいじめにされたあげく首をしめられた。玄太は無我夢中で行者の腕にかみついた。
皮膚が破れ血が吹き出し、錆びた鉄の味が口の中にひろがった。
そうやってからくも行者から逃れた玄太は本殿にかけよりご神体の水晶球を敷き布ごとつかんで逃げた。
大杉の枝にもどった玄太は、息が整うのをまって足跡を消す術をほどこして姿を消した。
ムササビが闇のなかへと飛んでいくようだった。
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<子天狗玄太> 「手が冷たいの」と姫神が玄太にいった  10:35
紅梅
<子天狗玄太>
「手が冷たい」十二単姿の姫神がいった。
玄太は身体ひとつぶんにじりよって姫神の手に自分の手を重ねた。
5月の田に水が流れいるように玄太の胸に熱情が広がっていく。
ゲンタはもうランドセルをしょっていない。スリムなジーンズに白いポロシャツ。
ぼくは源氏物語絵巻をみるように彼らをみている。
天井を抜いて上から見下ろす構図は、人形遊びをする少女たちの視線だと、たまたま開いた本にでていた。
絵巻のなかの個性も表情もない男や女の顔は人形の模写という。
絵巻に見入ると、人形劇の人形が生気を帯び個性を宿すように、描かれた男や女が生身になる。
十二単は十二枚の袷(あわせ)の着物と一重(ひとえ)の肌着のこととか。
十二は1セットを象徴する数字だから、どうしても十二枚必要なわけではない。
袷の着物は上に重ねるほど少しづつ短くする。すると襟や袖に重ねの色模様が縞状に浮かぶ。
ほの暗い室内では絹がみずから輝いているといいたげに光る。
十二単の女御たちがわずかに動くだけで、かさねの色目は蛍光する。
「ふるさとの海や山が懐かしい。親神さまのもとに戻ってみたい」姫神がいう。
「ほんとうに竜宮って海の底にあるの?」と玄太。
「だって友だちがいうには竜宮は海の中だから、おいらたちが行こうとすれば溺れてしまうって」
「国津神たちは北と南を天地と取り違えているのね。北の果ては天につながり、南の果ては海の底と思っている。
そうじゃないの、北の果てには大陸がある。竜宮は南の島。ここからずーっと遠くにある常夏の島、
冬でも重ね着しなくてすごせる」
神々は分霊(わけみたま)する。分身が日本の各地に招かれて祭られる。
岩船神社の女神と竜宮乙姫の関係は、今風に解釈するなら端末のPCと巨大なサーバーに記録されたAI
のようなものなんだろう。
姫神はゲンタの手のなかで自分のてのひらを返してゲンタの指に指をからませた。
思春期の少女そのままに若々しい女神だった。
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