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■<美人生霊アイス・12> 異世界への着地(7月6日のつづき) 11:11
シロツツジ
<美人生霊アイス・12> 異世界への着地(7月6日のつづき)
なにがどうだったのか、キツネに摘まれたような話だった。
ぼくは身の丈1メートルほどのサンショウウオだったし、アイスも同じだった。
沼からでるとぼくはもとのぼくに戻った。シャツを1枚脱ぐような感じがしただけだった。
どこも濡れていなかった。
驚いたことにアイスに身体があった。彼女はひとりの女性となってぼくの右脇に立っていた。
ぼくと同じほどの背丈、同じほど痩せていて、細身のホワイトジーンズ、
白に近い水色のダンガリーシャツを着ていた。首筋が半分隠れるほどの髪は繊細なカットが
ほどこされていた。彼女は唇に力をいれて小首をかしげた。イメージしていたのと同じ顔立ちだった。
「身体がある」ぼくは言った。「ええ、山本さんがこっちに来たの」彼女が言った。
「こっち?」「もちろん、イキリョウになったの」彼女が笑った。
「ああ、身体があるほうが断然いいね」「ここがどこだかおわかり?」「いや、見当もつかない」
「アカネさんは道の案内人という人といっしょに崖から飛ぶんだとおっしゃってた。
でも、案内人と会うことなく私たちは飛んでしまった。
少し待っていれば案内人が来てくれるんじゃないかしら」
ぼくらはそれぞれに材質の異なる石材で作られた壁や塀に三方を囲まれた小さな広場にいた。
ひとりでボールを蹴っていた少年がぼくらに眼をとめて近付いてきた。
「ねえちゃんたちは迷子かい」少年がいった。
「ええ、着いたばかりなの」アイスが応えた。
「そうか、そういう人を見たらインフォメーション・センターへ連れて行くのが決まりなんだ」
路地をとおって中庭のある家に連れて行かれた。このあたりの家はどこも石のブロックを積み上げて
モルタルを塗ってあった。たいがいは2階建てないし3階建てで、
なかにはモルタルのうえからカラフルなペンキを塗った家もあった。
少年は口数が少なかった。中庭に面した一室にぼくらに入るよううながすと、
「ここにいて」と言って帰っていった。

■<美人生霊アイス・13> ツーリスト・インフォメーション 
10畳ほどの広さの飾り気のない部屋だった。ドアと並んだ窓に白いレースのカーテンがかかっていた。
「ツーリスト・インフォメーションだって?」ぼくはいった。「その、なんていうか、
余人の立ち入りを許さない、チベットの僧院みたいなとこかと思っていた。ここはまるで、
大きなアシュラムの外人受付みたいだ」
「そうね」アイスは部屋に置かれた机や簡素な椅子、フロアランプを見やった。
レースのカーテンの合わせ目からはいった1条の日差しが、机のうえに光の亀裂を作っていた。
机の端には長さ10センチほどの細長い水晶ポイントが置いてあった。
ペーパーウエイトとして使っているんだろう。
ドアから入ってきてテーブル奥の椅子に着いたのは、20代前半にみえるアスリート然として
身体の締まった女性だった。ベージュのガウチョパンツに黒いキャミソール姿。
ノーブラでほどよい大きさの乳房が布地を押しあげ、突き出した乳首が見てとれた。
「よくいらっしゃいました」と彼女が言った。愛想のいいものいいだった。
「どのようなサービスをお求めでしょう?」
「着いたばかりでここがどういうところか、よくわかっていないんですけれど」ぼくがいった。
「ああ、そういうことですか。ちょっと複雑な地形なので、道に迷うとかして
こちらにこられる方もいらっしゃいます。ここはアーチスト・コロニーでして、
30人ほどの作家さんたちの、絵画、彫刻、版画、詩や舞踏、などの制作現場を見学したり、
作品を購入したりできる、そういう場所です」
「舞踏や詩もですか? ダンスとかも?」興味ぶかげにアイスがきいた
「ええ、ストリートダンサーやトランスダンスのダンサーもおります。彼らはDVDや詩集を
販売しています。概要を知りたいのであれば上の階にメインギャラリーがあります」
「大きな水晶が飾ってある場所をさがしているうちに、こちらに案内されて来たんです。
場所を間違えていないといいんですが」
「そういうことですか」と彼女は言った。「そういうことであれは、一言申し添えさせてください。
そちらの男性から見れば、わたしは世間知らずの小娘に見えるかもしれません。
けれどここではわたしが審査員で、わたしの一言があなたたちの進退を決めます」
そういって彼女は、メイとよんでくれと、名前を告げた。
御神体水晶はそれほどおおそれたものなのか、まるでそこらの寺が骨とう品の仏像に
もったいつけるようなものじゃないか。ぼくは思った。
「審査員とはいっても御神体の意見を伺って通訳するだけです」
メイはテーブルの上の水晶ポイントを引き寄せて手をかざした。
「御神体の意味をご存じですか?」彼女が訊いて、アイスが答えた。「神様の依り代ということでしょ」
「それでも間違っていないのですが、ここではそれが神そのものです。
言葉の綾ではなく実体としてそこにある、それが神なんです。御神体は神であり、わたしどもは
神から派生した子神ということです。見る準備が整っていない者がそれに触れると、
眼を焼かれたり、気がふれたりします。3日前には、どのようにしてかわたしどもの監視を
かいくぐり、御神体に触れようとしたために、その場で雷に打たれて亡くなった方がいました」
メイは瞑目した。身体があるかなしかの動きで前後に揺れた。水晶ポイントが身震いしたかに思えた。
青白いコロナがわいて彼女のてのひらとの間で幾本ものスパークが走った。
小さな稲妻を見るようだった。アイスを見ると彼女も同じものを見たらしく、
目を見開いて驚愕の表情を浮かべていた。
「生意気なことを言ったようです。御神体が通してもよいと許可されました。
関係者に連絡して手筈を整えますから、少々お待ちください」メイはぼくらを残して部屋を出ていった。
4-19-5
| 美人生霊アイス | comments(0) | - | posted by YK
<美人生霊アイス・9> メギツネ・アカネの話  10:18
水晶クラスタ
■<美人生霊アイス・9> メギツネ・アカネの話 
 
その後の1ケ月は、ホンコンへの出張や新着製品の仕分けなどが重なって、
山の家に戻る時間もなく過ぎていった。
アイスのことが気になっていたけれど、生霊に恋するのはやっぱり尋常じゃない。
恋人とはときおりは夕食をいっしょにして、朝までともに過ごせたほうがいい。
バスを降りるとアイスが寄り添ってきた。「ひさしぶり」と彼女は言った。
「元気にしてた?」といってから変な挨拶と思った。生身の彼女は動けないし話せない。
「ええ、今日あたり会えると思っていた」彼女は言った。
「わたしね、旅にでようと思うの」「どこへ?」「遠いところ、でもよくわからない」
「どうして?」「御神体水晶というのを探しにいくんだけれど、どこにあるのかわからない」
「御神体水晶?」「幼児の背丈ほどに大きな水晶で、それにふれると意識が開かれる、
そういう水晶があるんですって。」
「だれに聞いたの?」「アカネさんという人から。彼女は自分のことをメギツネだといってた」
「アカネさんに会ったの?」「ええ、やっぱりお知合いだったのね。
アカネさんは山本さんのことを知っているっておっしゃってたから」「うん、まあまあ」
 何日か前、ひとりでそこの橋から川を眺めていた。こんにちわって声をかけられて、
女の人が立っていた。赤いダリアの花のような人だった。
「その川じゃあ飛びこんだって死ねないわよ。足をくじくのが関の山ね。
それにあんたは霊なんだからもう自殺できないよ」その人が言った。
髪を結いあげていて、わたしより4、5歳年上の感じだった。
邪気がなく、婉然という言葉にぴったりの笑顔だった。
「あんた、いつ死んだの?」って馴々しいから、「死んじゃいない、ちょっと出てきただけ」って応えた。
「おや。まあ、珍しい、生霊かい、早く戻らないと古ダヌキの餌食にされるよ」
それから彼女は「アカネよ」って名乗った。会ったばかりなのに名前を言うなんて外人みたいだった。
それでわたしも、アイスですって言った。「アイスって外人なの?」って訊かれて、
近くに住んでいる人に付けてもらったって言ったら、
「お化けに名前を付けるなんて、山本さんのことかしら?」という話になった。
「生霊だけじゃなくて、メギツネともお知り合いなんですか?」
「うん、単純な話ではないけれど、このあたりにはメギツネ3姉妹というのがいて、
長女は弓月(ゆみづき)、次女が茜(あかね)、三女は桜子(さくらこ)という。
弓月の相方がトカゲに乗った仙人で、親しいというならトカゲに乗った仙人が一番親しい。
桜子は修行に出ていて今はいない。この話は今度にしよう。
それでアカネさんが御神体水晶があると言ったんだね」
「ええ、まず旅の守護者という人に会って、その人に認可されるなら、御神体水晶を探す旅にたてるそうよ。
なぜ私たちはいまここにいるのか、わたしのような病気になっても、なぜ生きていかなきゃならないのか、
そういうことがわかるんですって」
「神秘の水晶だ。水晶って聞くだけで見逃せなくなってしまう。是非見てみたい。
自分もいっしょに行きたいけれど行けるんだろうか?」
「いっしょに行ってくれるの?」
「うん、アカネさんがそういうのなら、きっと本当のことなんだ」 6-20-1
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<美人生霊アイス・8> 死への旅立ちと心の根っこ 10:08
水晶クラスタ
■<美人生霊アイス・8> 死への旅立ちと心の根っこ

「結局ね、死への旅立ちは飛行機に乗っての海外旅行に似ていると思うよ」とぼくはアイスに言う。
「飛行機に乗ったらもうじたばたできない。黙って運ばれていくしかない。
そうして飛行機を降りて通関すると、そこにはそれまで全然知らなかった世界がある。
旅人であるぼくらは、すっかりと目新しい世界に心を奪われて、
それまで自分がいたもとの世界のことを忘れていく。
「転生していくの?」
「そう、どこかわからない、いまの自分には想像もできないところ、
けれど死後への旅は同時に心の根っ子のほうに帰っていくことなんだ」
インドのベナレスという町のガンジス河の岸辺に座ってそういうビジョンをみた。
岸辺にはガートといってインド人が沐浴するための階段が幾つもつながっている。
その外れの方のあまり人がいない場所に座った。
少しすると背筋を伸ばすと微妙な快感がじわじわと背骨をのぼってくるのがわかった。
まったく素面(しらふ)だったけれど、背骨に蜂蜜がしみこんでくるみたいだった。
ガンジス河は対岸を見定めがたいほど川幅が広い。こちら側は生者の領域、衆生が暮らす土地で、
向こう側は死者の領域、神も新生児の魂も向こう側からやってくる。
こちら側と向こう側、その境界にくらい領域があって、それが向こう岸を見えなくしている。
湖の底には枯れ木や腐葉土がたまっているけれど、その下にはこんこんと清水がわきでる泉がある。
そういうのに似ている。それは心の構造ともシンクロしている。
境界は見定めがたいがゆえにくらく、魔の領域とよぶに似つかわしい。
そこにはこれまでの人生で悔やんだり辛かったり、悩んだり憎んだりした思いが
清められずに沈殿していて、それらが魔物や亡霊を引き寄せている。
その向こう、心の核には光明がある。だから彼岸からこの世を訪れる大日如来や阿弥陀仏は
目が眩むほどにまばゆい。そういうことを見た。
生きているということは、向こうとこちらをいったりきたりすることで、
心の構造から見るなら、個人を越えた大きな意識の湖の底のほうに降りていって、
また浮かびあがってくることだった。
そういうふうに考えると、死ぬことはそんなに怖いことでなくなる。
自分では想像もできないほど遠くへ行く旅は、自分のなかへ帰っていくことで、そこに光明がある。
「ひゃーっ、あなたの頭のなかってきらんきらんな感じがする。飛行機に乗って旅立つのね、
そうであれば死後についてそんなに思い悩まなくていい」
「そうだ、そういうふうに思えるなら死に保証されることになる。心に平安が宿る」
「たくさんお話してくれてありがとう。でも、もう行かなくちゃ。帰らないと命の糸が切れちゃう」
小さな風がふいて、なにかがぼくの唇をかすった。アイスの唇だった。春の日の梅の花の味がした。
アイスが去ったあとには空ばくがのこった。
自分の無力さを思い知ったところでどうなるものでもなかった。
ぼくは彼女の名前を知らず、入院している病院を知らない。それに見舞いに行けたとして、
管や電極をつながれてベッドに横たわる姿を彼女は見られたくないだろう。
消え入りたくなるほどに寂しかった。


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<美人生霊アイス・7> 臨死体験  10:19
獣型勾玉
■<美人生霊アイス・7> 臨死体験 

「習慣は根付いてしまうと真実のように思えてしまう。
そういう思い込みにしたがって人間たちは、それぞれの時代、それぞれの土地で、
それぞれの死後世界を信仰してきた。 宗教より科学を重んじるのであれば、
人間だってフライドチキンの鶏とか、殺虫剤で殺される虫と同じように、
生命の消滅とともに自我もすっかり消滅することになる。
けれど科学もまた信仰の別形態なんだ。だれも死後の世界を証明できないし、証明できないことが
死後はないという答えかもしれない。……近似死体験というのがあるよね」
「ええ、死んだらお花畑があって、天使とかお婆さんがいて、こちらに来るのはまだ早い、帰りなさい、
とかいわれたというお話? みんなが類似の体験をするから死後の世界は実在するといわれている」
「自分も体験したことがある」「ほんとに?」
「うん」「どんなだった?」
子供の頃、肺炎で死にかけた。夢うつつに人魂(ひとだま)をみた。
母親におぶわれて医者に行くんだけれど、夜道の街灯の下で母親は知人と立ち話する。
街灯が付けられた木の電柱の脇を人魂がのぼっていった。
黄色いおたまじゃくしみたいでふわふわしていた。
それに付いていったら金色の光の湧きだし口みたいなところに入っていった。
斜めにうがたれた井戸みたいで入るにつれて光が強くなった。
光のシャワーをくぐって、光の川をくぐって、光の海をもぐっていって、
ついには光でいっぱいの宇宙を凄いスピードで飛んでいった。
そこで何があったのか覚えていないけれど、ともかくそうやって帰ってきて病気が回復に向かった。
でもそういう体験を振りかえると、死後の世界として天国が実在するというのは
キリスト教的幻想だと思う。交通事故で瀕死の重傷をおったり、重病で死にかけると、
脳は緊急時の自己防衛のために、ドーパミンという脳内ホルモンを過剰に分泌して
脳自身をストレスから守ろうとする。電気のブレーカーを落とすみたいに、
壊れてしまう前に自分を閉じてしまうんだ。
ドーパミンは成分が麻薬に近似していて脳内麻薬とよばれている。
自分で自分を麻薬漬けにして痛みや苦しみを回避する。死んでしまえばそれっきりだけれど、
死なないで戻ってくると、その状況を言葉で説明しようとするから、超快感体験が語られることになる。
それが近似死体験だと思う。多くの人が死にかけて異口同音に天国を見たと語ったからといって、
天国が実在する証拠にならない。
「そうなんだ」
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<美人生霊アイス・6> 輪廻と永代供養の矛盾  11:03
グリーンクォーツ
<美人生霊アイス・6> 輪廻と永代供養の矛盾 
仏教では古代のインド思想のもと人は転生していく。
転生という「苦」の連鎖を悟りによって超越するのが仏教の最大の目的だ。
仏教ばかりでなく、ブッダが生きていた時代のインドの思想家・宗教者たちの最大の関心事が
輪廻から解脱することだった。死後49日間を中有といい、この期間中のどこかで、
死者は前世のカルマに従って転生していく。この教えに従うなら、墓はいらない、追善供養も意味がない。
だけど平安時代に十王信仰という仏教と道教がミックスされた信仰が入ってきて、
江戸時代に十三仏信仰へと変容して、仏教の常識のようになってしまった。
葬式の後で初七日から四十九日、百箇日、一周忌、三回忌、の追善供養が奨励されるだろ。
あれはその間に二七日(ふたなのか、死後14日目)、三七日(みなのか、21日目)など忌日があって、
三回忌まで十回の忌日が決められた。この日に死者は閻魔など神界の十王の裁きを順次受けていく。
たとえば閻魔大王が死者を裁くのは五七、35日目(いつなのか)の忌日だ。
これに対して遺族が追善供養すれば死者の罪は軽減されると宣伝された。
これは古代中国の民間信仰で、仏教にはなかった信仰だ。
さらにここに七回忌・十三回忌・三十三回忌の3つが加わった。十王は道教の神々だったけれど、
本地垂迹説といって神道・道教の神々の本体は仏であるという説のもと、
十王にも如来・菩薩があてはめられて十三仏信仰ができあがった。
「ああ、それで永代供養なの?」
「そう、これに五十回忌なんてのを入れて永代供養になった。
子孫に供養されないと自分が死んでも浮かばれない。ずーっと未浄化霊のまま、
浮遊霊とか自縛霊していなきゃならない。無縁仏恐怖症がはじまったんだ。
寺院に信者をつなぎ止める罠みたいなものだ」
これに江戸時代にできた檀家制度がからんでくる。徳川幕府はキリスト教の浸透を恐れた。
寺請制度というのを作って、日本人のすべてを仏教徒にして管理を寺院に任せた。
仏教は元来はアナーキーな存在なのに軍事政権の走狗になりさがった。
それで僧侶たちは檀家を寺に縛っておく手段として、偽の経典を作り十三仏信仰をもちあげて、
永代供養しないと地獄に墜ちる、子孫は不幸になると吹聴した。
たとえば禅宗なんかは座禅して悟りを追及するのが本命で、教えからして大きな教団になりえないのに、
葬式仏教に鞍替えすることで大宗派に育っていった。
こういう輪廻思想を無視した仏教を日本人は信仰していて、僧侶が死者を導いてくれると信じている。
「仏教も神道もあてにならないのなら、死ぬことをどう考えればいいの?」(以下、つづく)
写真はパキスタン産グリーンクォーツ、300x300x130mm 16.11kg

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<美人生霊アイス・5> もうじき死ぬんだよ、きっと  10:44
美姑産水晶
<美人生霊アイス・5> もうじき死ぬんだよ、きっと 
「もうじき死ぬんだよ、きっと」と彼女は言った。
「死んだらどうなるの? そういうことばかり考えている。医学ではわたしを治せない。
明日死ぬかもしれない。そう思うとわたしが終わってしまうことがとても怖くなる。
みんななくなっちゃう感じが耐えられない」
「可哀相と思うよ。だけどその問題は手に余る」
「だってほかにお話できる人がいない。身体は死んだも同じなんだから、早く死にたいと思ってる。
だから余計に死んだらどうなるかが気になるの」
棺に横たわるアイスの顔が見えた。死化粧したオフェリアみたいに美しかった。
JR高尾駅から山の家へ向かうバスはしばらくすると公園墓地を横断していく。
そこは東京都民のための死者の都で、丘を崩し谷を埋めて幾つもの霊園が開設されていて、
道路沿いには墓石屋が軒を並べている。
そのどかこかにアイスも葬られるんだろうか。
死者が本当にそこに眠るというのは、あまりに大嘘で信じるに値しない。
死んだら墓に入るとアイスに答えるのは不実だ。
「死後の世界について教えるのが遠い昔からの宗教の役割だった。そういう話でいいの?」
「ええ、そういうことを知りたい」
原初の神道は弥生時代の村の宗教だった。当時の人々には集落の内側だけがリアルな現実だった。
地理や時間の認知の仕方が現代人とは違っていたんだ。
村を一歩でるとそこがつまりは異界だった。
昏くて理解が及ばない、モノノケや魑魅魍魎がばっこしているような世界。
そうした異界の外れのほう、山の奥や海の彼方に死者の村があった。
死者の魂は鳥に運ばれて、死者の村に行って、生気のない日々を過ごし、魂が浄化されて、
自分が誰だったかを忘れるほどになると、またこちら側に生まれてきた。そんなふうだった。
古墳時代になって豪族が死後の世界にも投影されて、英雄神や女神など名前のある神々が誕生したが、
日本では官僚のような神々が死者を統制しはしなかった。
そこに仏教がやってきた。仏教の伝来は無声映画が突然に総天然色三次元立体映画になったような、
驚天動地の出来事だった。外来の神である仏は金ぴかの身体に宿っていたし、
仏にすがれば絢爛豪華な浄土に往生できた。浄土では人は病まず、老いず、働かず、
食い気も色気も欲望のことごとくを甘受できた。その反面仏教は、因果応報の厳罰主義で、
儒教風に彩色された道徳に背くと、地獄におちて、
語るもおぞましい久遠の苦しみに耐えなくてはならなかった。
飴と鞭の大盤振る舞いによって仏教は日本人の間に浸透していった。
「いまでは神道や仏教を字義通りに信仰する人は少ない。多くの神主は神の実在を信じず、
坊主は輪廻を信じない。だからもう死んだらどうなるかの答えを宗教に求めようがない。
余計に死ぬことが恐ろしいんじゃないかな」
「死んだら墓にはいるんだと思っていた。あんなに冷たくて窮屈で冷たく暗い場所は絶対にいや」
「墓に死者を封じたのは江戸時代の僧侶たちなんだ。仏教は転生あってこその仏の教えなのに、
日本では仏教徒は仏教徒であるがゆえに転生できなくなった」
「えっ、どういうこと?」
「話が長くなるよ。面倒な話だし、日本仏教の商売センスに不愉快になるばかりだ」
「でも、知りたい」
| 美人生霊アイス | comments(0) | - | posted by YK
<美人生霊アイス・4> 神社巡りがアイスの趣味  17:24
フローライト
<美人生霊アイス・4> 神社巡りがアイスの趣味 

入院する前の彼女は歯科医師として町の歯科医院に勤めていた。
神社巡りが趣味だった、と彼女は言った。
友だちの結婚式に招かれて熊谷市を訪ねた。車ででかけて道に迷い、
不思議な体験をしたのがなりそめだった。
そのときのことを歩きながら彼女は話した。
ちょっとした大きさの森があって、上空にたくさんのカラスがまっていた。
森には不似合いなほど大きな鳥居があった。そういうところが目に止まった。
変な話、神社に呼ばれている気がした。
十羽ほどのカラスが鳥居や近くの木に止まっていた。
そのうちの一羽が鳥居をくぐり抜けて拝殿のほうに飛んでいった。
おそるおそるに境内を歩いて、拝殿で柏手を打ち両手を合わせた。
その刹那、「よく来た!」という声が奥から聞こえてきて、「胸を開け!」といわれた。
声は頭の中に直接ひびいた。胸の扉を開くよう想像した。そこに百円玉ほどの光がすとんと落ちた。
神さまに光をもらったんだと思った。
その日はホテルに泊まって、翌日結婚式に出て、帰りにもう一度同じ神社に寄ろうとした。
だけど見つけられなかった。でも胸の光はずーっと残っている、大きめの真珠の粒が宿っているみたい。
「神社巡りといっても有名な神社じゃなくて、御札やお守りを授与する社務所が
あったりなかったりする程度の小さな神社が好き。それで気付いたんだけれど、
神社って一体だけではなくいろいろな神さまをいっしょにお祭りしてあるのね」
「うん」「知ってた?」「うん」「なぜかしら?」
「神道の歴史は古くって、その間にあっちとこっちの神社をまとめたり、
朝廷の顔色うかがって気に入られようとしたり、修験の行者や、昔は遊行の巫女がいて、
彼らが連れてきた神を祭ったりで、神社は神さまが雑居する場所になった」
「そうなんだ。でもそんなんで窮屈じゃないのかしら?」
「おれなら他人といっしょの部屋に入れられるなんて、絶対いやだけれど、
神さんは常駐しているわけではないんだから、そんなに気にしないんだろう」
「常駐していないって、神社に居ないの?」
「神は招かれて降りてくる。お供え物をしたり巫女の舞いを見せたりして神様を供応する。
それからいろいろな頼み事をして、帰ってもらうことになっている。そういうのが昔からのスタイルだった」
「じゃあ、いつもはどこにいるの? 天国?」
「いや、天国は仏さんの世界で、昔は村の境界を一歩出れば、そこは異界だった。
つまり実際の地理ともののけや死者たちの世界が混然としていた。
そういうところのどこかに、神さまの場所があった。神奈備みたいな聖域があったし、
そうでなければ、村の外のそんなに遠くないところに向こう側の世界があったんだ」
少しの間、沈黙があって、彼女が再度言った。
「でも、みんなの気持ちとしては、神さまは個性を超越した存在で、いつも神社にいて、
私たちを見守ってくれている、そういうふうでいいんじゃないかしら。
たとえそこに理屈とのずれがあっても、そういうふうな神さまが、私たちの神さまなんだと思うの」
「そうだね、そんなふうでいいと思うよ」
それからふいに彼女の気配が消えた。ダウンベストを脱いだような感じがした。
偶然の一致なんだろうけれどカラスが鳴いた。まるで同意するかのような一声だった。

| 美人生霊アイス | comments(0) | - | posted by YK
<美人生霊アイス・3> アイスの病状  16:05
アメシスト
★これは美人生霊アイスの3話目。なぜ彼女は自分の身体を抜け出して、
他人に憑依するイキリョウになったかが明らかになる。

■<美人生霊アイス・3> アイスの病状
男と女が出会う。相手のことが知りたい。名前や職業や経歴や国籍、人種はさほど大事ではない。
趣味が合わなくても問題はない。うまが合うというか、気が合うというか、
言葉にする必要のないところで互いに相手を受け入れることで、関係が深まっていく。
けれど、わたしは生霊(いきりょう)です、と名乗る相手ではやっぱり素姓が知りたい。
どうやって生霊になったのか、なぜぼくを選んで話しかけてきたのか、
この人はぼくに何を求めているのか、そういうことも知りたいし、
このさいだから生霊の生態についても知りたい。だから彼女との会話は、
文化人類学者がパプアニューギニアの高地人を掴まえてインタビュー攻めにするみたいだった。
声にならない声での会話だったので、録音してあとで確認するというわけにもいかなかった。
彼女は都内の病院に入院していて、難しい名前の難病をわずらっていた。
意識と身体が分離していて、意識はあっても会話はできず、身体は動かそうにも動かなかった。
夢で幽体離脱することを覚えた。自分が天井近くに浮かんでいて、
ベッドに横たわる自分を見下ろしていた。
それをきっかけに身体を離れた魂が病室から出られるようになった。 
陣馬山のほうに来るようになったのは、元気だったころハイキングに来て、バスの車窓に、
昭和レトロといった面持ちの木造家屋を見て衝撃に打たれたからだった。
その建物は元内科医院で看板はそのまま、いまは空き家になっている。
板張りの外壁も窓枠も青いペンキで塗られていて、アジアの町から移築したかのようだ。
彼女が幼かったころ、実家の近所に遠縁にあたる老婆が一人暮らししていた。
老婆は彼女のことを本当の孫のように可愛がってくれた。
その老婆の家がくだんの木造家屋にそっくりだった。
老婆は霊が見えるとか、未来がわかるなどということを言って、変人扱いされていた。
いまなら彼女が見ていたものをわたしも見ていることがわかる。
だから余計にこの建物の近くを散策するのが気持ちの慰めになった。
空き家の内科医院は最寄りのバス停近くにある。
町に通うには1時間に1本のバスに頼ることになり、そこから家までは徒歩20分ほどかかる。
こういう田舎の村では自家用車は必需品で、免許がないのは奇異なことだが、
ぼくには右と左が識別できないという発達障害がある。右を指して左と言ったりする。
なので車を運転できない。バスを降りたぼくが彼女の目にとまったのは、
百万の男と女が出会うのと同じような偶然のなせる技、
もしくは3つ4つ前世の因縁ゆえのことだった。2016-2

| 美人生霊アイス | comments(0) | - | posted by YK
<美人生霊アイス・2> 美人生霊からの挨拶  10:08
ベラクルスアメシスト
<美人生霊アイス・2> 美人生霊からの挨拶
「危ない!」と女の声がした。歩みを止めた。
足下のガードレールの支柱の脇に1メートルはこえるだろう大きさのマムシがいた。
まるまると太って焦げ茶に薄茶のストライプ模様、鱗はラードを塗ったようなぬめりがあった。
マムシは鎌首をあげてぼくを見ていた。あと一歩で踏み付けるところだった。
チッチと舌うちしたげにマムシはとぐろを解いて路肩の茂みに入っていった。
ガードレールは路肩ぎりぎりに設置されている。
小川との間は人の背丈2倍ほどの崖になっていて、灌木や雑草が茂っていた。
水辺に降りたマムシはうねうねとくねって川を渡り、岸辺に沿って上流へと泳いでいった。
このあたりでは川幅は7、8歩もあるけば渡れそうに狭く、くるぶし程度の水深しかない。
「気をつけなきゃ」と声がいった。張りがあって成熟した女性を思わせる声だった。
振り向いても誰もいなかった。
「カワセミがいたんだ。それでついそっちに気をとられていた」ぼくは言った。
「カワセミにマムシってワイルドライフみたい」
「お化けなの?」頭の中に聞こえてくる声に言った。
「お化けじゃない」
「じゃあタヌキかキツネ? それも違う? お化けなら、そういうことができる人のところにいって、
ちゃんと向こう側に送ってもらわなきゃ」
「死んじゃいない。ちょっと身体から出てきただけ」
「えっ?」「イキリョウ」
「生霊ってわけ? そんなの常軌を逸している」アイスとよぶことになる美人生霊とのなれそめだった。
「ずーっとね、お話できる人がほしかった。あなたの頭から変なふうにオーラが吹いているのが見えた。
それでこの人は同類かも、と思った。お話したかったけれどきっかけがつかめなかった。
わたしのことを怖がらないかしら、とか、生霊を信じてもらえるかしら、とか心配だった。
だから、怖がらないでいてほしいし、嫌でなかったらときどき、こうしてお話できると嬉しい」
そんなふうに彼女は言った。
(彼女は淡い藤色、ベラクルスアメシストみたいな)

| 美人生霊アイス | comments(0) | - | posted by YK
<美人生霊アイス・1> アイスの美人度について   10:19
アメシスト
これは以前の物語『子天狗玄太』の第二部。
玄太と出会う前、美人生霊に憑かれていたというか、友だち付き合いしていた時期があった。
彼女のはかなげであやうい感触や自分の意見に固執する自我の強さは紫味の薄いアメシストに似ていた。

■<美人生霊アイス・1> アイスの美人度について 
「なんてよべばいい?」ぼくは訊く。「好きな名前で」彼女が言う。
「カルテのわたしは病院にいる。あれはわたしじゃない」
「生霊(いきりょう)じゃ可愛くないし。アイスで不満じゃない?」
「愛してくれるの?」「いや、霊に恋するのはちょっと。……オレ言葉で常軌を逸している」
「そうね」「アイスって、てのひらにアイスキューブをのせる。
日に透かし、日差しを反射させたりしながら、右や左から眺める。そんなふうに美しい」 
「ありがとう、だけどわたしはそんなに美人じゃない」「うん?」
「あなたが感じているわたしは、わたしの自己イメージの投影なの」「ああ、だけど美人だ」
「そうね、そうであれかしと願うわ」
そんなふうにぼくらは言葉でじゃれあって歩く。
アスファルト舗装した一車線の田舎道を家に向かうときには左側に小川がある。
谷を下る水の流れは家の近くでは岩を食んで渓流然としているのに、
3つ4つの堰堤を過ぎると流れはゆるやかになって底の浅い小川に変じる。
左右にずんぐりとした山がつらなり、山肌は植林した杉や檜、あいまを埋める雑木に覆われている。
あたりは過疎の山村でまばらな民家の3軒に1軒は空き家のようだし、
道路脇の空き地はたいがいが放棄された畑で、灌木のまわりには猪がミミズを漁った後が残っている。
肘がぶつかるほど近くにいるのに、彼女の身体には触れられない。
彼女の息遣いがわかるのに顔を見ることができない。
けれど彼女はうりざね顔して、薄く整った唇をしている。
彼女はインドの女性のように小首をかしげて同意する。そのときの顎の線が悩ましい。
「ねえ、見て、あんなに大きなカラス」出会って2度目か3度目に彼女が言った。
頭をあげると道路の右端の電柱の上にニワトリほどに大きなカラスがいて、ぼくらを見下ろしていた。
漆黒の嘴に陽光が反射していた。電線にも数羽のカラスが止まっていて、
彼らは生き物というより黒い切り絵に見えた。
「わたしにとってカラスは瑞兆なの。いいことが起きる前触れみたい」
彼女が言うと、親分カラスが幼児が泣くような声でオギャアオギャアと鳴いた。
そのカラスは足を支点に身体を上下に振って声を出した。うつむいては声をため、首をあげて息を吐く。
ヨーガ行者のようだったし、空を威嚇しているようもであった。
「ね、同意してくれたみたい」彼女が言った。
霊的次元ではカラスは銀色に見える。
あの人たちにはお山の神さまのお使いのようなところがある。
私が死ぬとき、たぶん彼らはわたしの魂をつかまえにくる。
そうやって彼らといっしょに飛べたらいいな。
そういうふうにいう彼女は、遠い昔からの知り合いのように思えた。
| 美人生霊アイス | comments(0) | - | posted by YK
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