平凡な日々のなかをいろいろなことが通り過ぎてゆく | 22:57 |
<過ぎてゆく日々のこと>
山の家から自転車で5分ほど、ゆるやかではあるけれどひたすらな登り道をペタルをこぐと
ひなびた神社がある。
渓流にかけられた木の橋を渡り、崩れかけた石段を登ると廃墟のような境内にでる。
あるとき労務者風の老人が橋の中央で鮒釣りに使うような折り畳みの椅子に座って、
渓流の水面を眺めていた。こんにちわと挨拶してぼくは石段をのぼり、神社に参拝した。
帰りがけにも老人はおなじ姿勢のまま渓流を見ていた。
水面(みなも)がせりあがり鏡面(きょうめん)になる。
波紋は黒曜石の破断面にも似て鋭くエッジのたった模様に変わる。
水音が遠ざかる。やがて身体が渓流の上を飛んでいく。
老人が見ていた風景はそんなふうだったんだろう。
もう一度あの老人に会いたいと思っているのだが、
このところ山の家に行くと本や翡翠原石の片付けに忙しくて、神社に出かけられないでいる。
老人は仙人ではないんだから年中そこにいるとも思えない。
<過ぎてゆく日々のこと>
山の家の最寄りの郵便局は最寄りのバス停留の先にあって、徒歩だと15分くらいかかる。
一車線の曲がりくねった田舎道は全部が下り坂で、
自転車だと家を出てから郵便局までの5分間はペダルを一度も踏まなくても到達できるほどだ。
20キロほどの重さのユーパックを出しにいったついでに、
その先にある夕焼け農園という市営観光農園の売店に行ってみた。
20年ほど前に開園されたのだが見物するのは今回が始めて。
風の吹き回しに狂いがあったのかもしれない。
構内に入って、売店入り口横に自転車を止めて引き戸を開けて店内に入る。
国道沿いにあるとってもジャパニーズなドライブイン「道の駅」と変わらない。
客のいない店内ではレジの奥で中年女性の販売員ふたりが手持ちぶさたにしていた。
ジーンズにダンガリーシャツの薄汚れたオッサンが、
素足にサンダルで土産物の陳列棚の間を歩くのは山盛り場違いな感じがした。
ドライフルーツとラスクと草花画の絵葉書を買って帰った。違和感のある買い物だった。
<過ぎてゆく日々のこと>
山の倉庫のプレハブ物置には10−15キロの日本翡翠の類似石
アルビタイト(曹長岩)が5つ6つとしまってある。
翡翠原石の主要構成鉱物であるヒスイ輝石(ジェダイト)は
アルビタイトの原料鉱物アルバイト(曹長石)が変成されて生じるという。
アルビタイトのなかには米粒状のヒスイ輝石が混じって半翡翠原石状態のものがあって、
これがすこぶる興味深い。倉庫の整理ではこれらアルビタイトを庭先に出すことにした。
今年はトカゲの当たり年なのか、
縁側の下や花壇の端をやたらに多くの子供トカゲが走り回っている。
縦にストライプが入り、全体にぬめりのあるメタリックな色合いをしたトカゲは、
カナヘビではなくトカゲというのだと、今回始めてネットに教えてもらった。
10センチ足らずのトカゲはおもしろおかしい存在だが、
これを10倍すれば1メートル、30倍すれば3メートルになって、コモドドラゴンになる。
山の倉庫近辺ではトカゲのなかに運良く300歳ほど生き延びて
ミズチになるものがいてもいいような気分でいる。