| CALENDAR | RECOMMEND | ENTRY | COMMENT | TRACKBACK | CATEGORY | ARCHIVE | LINK | PROFILE |
子天狗と散歩して刹那加持を習う 10:05
ホタルブクロ
<子天狗> 
玄太がやってくる。「元気にしてた?」ぼくは訊く。「うん」彼は応える。
「じいさんが亡くなった」「えっ、じいさんがいたのか?」「うん」
「幾つで亡くなったの?」「180歳」「えっ?」「天狗は人間の倍くらい生きるんだ」
「そうか、で、親しかったの?」「うん」「そうか、でも仕方がないよ。
みんなちょっとの間、こちら側にいるだけなんだから。でも、寂しくなるね」「うん」
「どんな葬式だったの?」「天狗は葬式はしないんだ。死期を悟ると森に入っていく。
さらに深い森へと入っていく道があって、そこにいった者はもう戻ってこない」
「へぇー、異文化の話だ」「それがね、昨日、じいさんはおいらのところに戻ってきた。
すごく嬉しそうな顔をしてやってきて、すぽっとおいらのなかに入った。
小さな光の玉となっておいらの胸にいて、おいらといっしょになっている」
「そういう光の玉を見たことがある、自分のなかの自分だ」「うん」
「じゃあ、もう大丈夫だね」「うん」 風が吹いて焚き火の炎が倍ほどの長さに伸びた。
炎の舌が虚空をなめた、「ほら、じいさんが同意している」玄太がいった。



<子天狗> 
玄太とつれだって近所の湧き水まで散歩した。
山道の土手の岩の隙間から清水がわく箇所があって、山の持ち主がかけひを設けて、
ペットボトルやポリタンクに水をくめるようにしてある。
アジサイやツバキの花や、ヒメジョオン、ユキノシタ、ホタルブクロなどの野草の花を見かけると、
玄太はひょいひょいと触れて歩く。
「何をしているの?」ぼくは訊く。「せつなかじ」彼が答える。
「せつないの?」「違うよ、刹那の加持。まあお祈りの一種だ」
「へえ、それって何?」「一瞬のうちに、ほんとうは瞬間よりも短い時間、木や草に触れて、
あんたはぼくと兄弟だ、ぼくらはともにこの星に生きている、
ぼくが元気でいるように、あんたも元気でいるよう願う、というふうに祈るんだ。
まあ、そんなにたくさん祈れないから、仲良くしようね、と祈る」「ふーん、すごいね」
「するとね、草や木や虫や蝶や鳥たちと仲良くなれる」「うん、愛のパルスが飛び交うんだ」
玄太たちはそういうことを塾でお師匠から習う。
木や草に挨拶すると、自分が木や草へと広がってゆくという。
泉に着いて、わき水を手のひらに受けて飲んだ。甘みのある冷たい水だった。
帰り道はふたりでいっしょになって刹那加持した。
刹那ごとに放出される祈りの念が無数にはじける小さなパルスとなって田舎道を染めていった。


<子天狗> 
仏壇に灯明、線香をあげて、ぶつぶつと般若心経をとなえていた。 
「おじさん」とゲンタが庭先から呼んだ。「何をしているの?」
「仏壇にお経をあげている」「何で?」「何でって、親がどこかで生まれ変わっているのなら、
辛い思いをしていないよう願っている。お経のパワーはそっちのほうに飛んでいって、
生まれ変わった者が元気で暮らせるよう力添えするんだ。チベット仏教の教えだ」
「ふーん、こないだおとうの友人が来ておとうと話していた。
人間たちのなかにはいつまでも死者の足をひっぱる者がいる、困ったことだって」
「へえー」「どんなに可哀相な死に方をしても、それはカルマなんだからしかたがないって。
死にきることで新しくなれるのに放してやらないと死にきれない、後ろ髪をひっぱるのと同じなんだって」
「そうだね」「ああ、だからお経は生まれ変わった人のためにあげるんだね」
「うん、より詳しくは、仏さんを褒めそやして、うちの身内をよしなに扱ってくれと頼むんだよ。
玄太のおとうってなかなか立派な人だね」
「おじさん」「うん?」「そのうち、うちに遊びに来てよ、おとうも喜ぶ」
| 過ぎてゆく日々のこと | comments(0) | trackbacks(0) | posted by YK
Comment








Trackback
この記事のトラックバックURL: http://kitade.stonesbazar.lolipop.jp/trackback/1233414
<< NEW | TOP | OLD>>