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夏の夕暮れ天狗たちが谷の上空を飛んでいった  10:04
やま
<天狗の話>
 誰かに呼ばれた気がして外に出た。夕暮れの庭には人影がなかった。
裏山の稜線に目をやると、ヘリコプターのように編隊を組んで5体の白いものが稜線の上空に浮かんでいた。
鳶や烏よりも大きく、ヘリコプターよりは小さい、
いくらか躊躇しながらだったが行者装束の天狗であることがわかった。
裏山の峰から谷を挟んで反対側の杉山の上空へと、ぼくの真上を翼を真横に開いて天狗たちは翔んでいく。
後尾の2体は玄太と同じような子天狗なのか、互いに翼を寄せ合ったり離れたり、
ぶつかって急降下したり、じゃれているようだった。
1億本の光ケーブルで山向こうに沈んだ夕日を集めてきたといわんばかりにあたりが急に明るくなった。
渓流の音とヒグラシの声が突然に消えて、谷に静けさが積もった。
残照を浴びて天狗たちの翼は黄色や朱、薄桃色に輝き、なにかの拍子に純白の翡翠に戻った。
大人天狗たちの飛行は引き波に運ばれる枯木のように滑らかで、
滑るように谷を渡って杉山の尾根の彼方に消えていった。


<子天狗> 
家の前の道路を挟んで反対側に山の中へ入っていく小道がある。
1軒の民家を過ぎれば、あとは鉄塔と送電線の管理にしか使われないような小道で、
ほんの5、60メートル坂をのぼると、町中の建て売り住宅なら4軒ほど建ちそうな空き地にでる。
そこからだと家の裏山が麓から山頂まで一望できる。玄太とそこまで散歩にきた。
空き地のはずれのごろた石にカラスが止まった。嘴が大きく図太そうなカラスだった。
「カラスを呼んでみようか」げんたがいった。
「そんなことができるの?」「みてて」彼はいって顎をあげてカラスの鳴きまねをした。
たちまちに10羽ほどのカラスがつどって先にいたカラスの近くに舞い降りた。
「おいらたちはカラスをミサキとよぶんだ。神様の前にいるお使い。
だけどね、カラスのなかには死んだ人の霊が宿っているやつもいる」
「ああ、聞いたことがある」
「うん、うまく死にきれないと、こっちとあっちの境で迷ってカラスに乗って
向こう側への道を探すんだって」「へえ、怪談みたいだ」
「ほら、右から3番目のやつが妖しい」玄太は目をほそめて睫の間からカラスたちをみて、指差す。
ぼくにはみんな同じに見える。
「ほんものカラスは輪郭が銀色に光っている。だけどにせものは切り絵みたいに黒い」
「難しいな、見分けられないよ」
「まあ、いいか」彼は言って、パチンと両手を叩く。
カラスたちはワサワサと羽音をてて空中に戻っていった。2017-2
| 過ぎてゆく日々のこと | comments(0) | trackbacks(0) | posted by YK
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