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小さなマイブームは忽然と貝紫に染まっている  22:31
貝紫
<貝紫・1> 
小さなマイブームは忽然と「貝紫」。貝紫は特殊な貝の分泌物を使って紫色に染めた布。
紀元前の地中海地方では君主の独占物だったので帝王紫という人もいるし
、染色法が断絶したので古代紫という人もいる。
貝紫は神々のパワーを凝集した色だった。
「色彩はパワーの眼に見える形」という世界観では
、貝紫染めの布を身に付けるということは、パワーを着るということだった。
いずれのおんときにか、というような時代、
お客さんからの電話でエレスチャルなどについて話していた。
彼女は古い裂(布切れ)のコレクターだといい、
道端に古い布団が捨ててあったりすると大騒ぎすると言った。
そういうことならということで、インドネシアのバティックやインドの型染めに興味があるが、
とてもそこまで手を広げられない、
それに貝紫だけは一度実物を目にしたい、というような受け答えをした。
そうしたら彼女は手元にある貝紫をくれるという。結局はエレスチャルかなにかと交換したと思う。
以来幅30cmほどで長さ1mほどの布を大切にしてきて、いまも紛失していない。
貝紫がいかに神秘か、いくらかでも内容を知ったら、もう紫色について無関心ではいられない。


<貝紫・2> 
貝紫は紀元前の地中海文明フェニキアで発見発明されギリシャ・ローマ帝国へと受け継がれていった。
原料のアッキガイはナポリ、クレタ島などで採集できたという。
クレオパトラの船には貝紫で染めた帆が張られ、金銀で飾られていた。
マケドニアのアレキサンダー大王はこの色を独占して天幕を染めたともいう。
「エジプト・ギリシャ・ペルシャ帝国・ローマ帝国・東ローマ帝国へと広まり、長く受け継がれ、
常に高貴な人々の衣服を彩って、帝王紫と崇められた」とか、
「1453年コンスタンティノーブル陥落によるビザンティン帝国崩壊とともに失われた」など、
とネットにでていた。西洋で断絶したアッキガイによる赤紫色の染色技法は、
古代アンデス文化でも知られていた。その技法はメキシコのオアハカ州にいまも残っている。
自分が所持しているのはこのオアハカ製のもので、
資料には同じ図柄が原始的な織り機で手織りされている写真がでていた。
(『帝王紫探訪』吉岡常雄、紫紅社、1983)8-19-1


<貝紫・3> 
紫染めに使う貝はアッキガイ(アクキ貝)科の貝で数種類が知られている。
大きなものはてのひらほどのツノガイ風、小さなものは写真を見ると親指大で巻き貝の姿、
磯の岩に張り付いている。これらの貝にはパープル腺という器官があって、
分泌する毒液で敵を撃退したり、獲物を麻痺させたりする。
たとえば餌にするカキにとりついてパープル腺の分泌物を注入、
カキが痺れるのを待って捕食するという。
陸上ばかりでなく、海にも空にも生物が平穏に暮らせる場所はない。
そしてこのパープル腺分泌物はもとは乳白色だが、紫外線に触れると紫色に変化するという。
アッキガイをつかまえ、パープル腺を取り出して糸にこすりつけることで糸を染色できる。
あるいはパープル腺分泌物を丹念に集めて、不純物を除去することで染料を作ることができる。
1個の貝から取れる染料はごく微量で、「1gの染料を得るのに2000個の貝を必要とする」とか、
ネットには「Tシャツ1枚染めるのに1500〜15000個の貝が必要」とある。
遠い昔には鍛冶師同様に色彩を操る染色家も呪術師の近くにいた。


<貝紫・4> 
貝紫は古代のヨーロッパや中南米だけではなかった。
日本では吉野ヶ里遺跡から、ごく小片で、それもだいぶ炭化しているようだが
貝紫で染めた布が見つかっている。いっしょに茜染めの部分もあるという。
吉野ヶ里遺跡の近くの有明海からはアカニシ貝というパープル腺をもつ貝が採集できる、
たくさんの貝殻も発見されている。
縄文・弥生・古墳時代には南の島産の貝輪が流行した。
貝輪といっしょに貝紫も伝搬してきたのだろうと想像している。
古代中国では長江下流域の河姆渡遺跡(かぼと、紀元前5000-4500頃)遺跡から
絹の使用を示唆する土器だったか玉器だかが発見されている。
絹は水田稲作といっしょに日本列島に運ばれてきたようだ。
染色の歴史に興味をもつと翡翠勾玉の時代、弥生・古墳時代がいっそう華やかになる。
古い時代の人々は色彩をパワーの目に見える様式と思っていた。
色彩を着ることはパワーを着ることだった。8-19-3

| 過ぎてゆく日々のこと | comments(0) | trackbacks(0) | posted by YK
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