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<美人生霊アイス・1> アイスの美人度について   10:19
アメシスト
これは以前の物語『子天狗玄太』の第二部。
玄太と出会う前、美人生霊に憑かれていたというか、友だち付き合いしていた時期があった。
彼女のはかなげであやうい感触や自分の意見に固執する自我の強さは紫味の薄いアメシストに似ていた。

■<美人生霊アイス・1> アイスの美人度について 
「なんてよべばいい?」ぼくは訊く。「好きな名前で」彼女が言う。
「カルテのわたしは病院にいる。あれはわたしじゃない」
「生霊(いきりょう)じゃ可愛くないし。アイスで不満じゃない?」
「愛してくれるの?」「いや、霊に恋するのはちょっと。……オレ言葉で常軌を逸している」
「そうね」「アイスって、てのひらにアイスキューブをのせる。
日に透かし、日差しを反射させたりしながら、右や左から眺める。そんなふうに美しい」 
「ありがとう、だけどわたしはそんなに美人じゃない」「うん?」
「あなたが感じているわたしは、わたしの自己イメージの投影なの」「ああ、だけど美人だ」
「そうね、そうであれかしと願うわ」
そんなふうにぼくらは言葉でじゃれあって歩く。
アスファルト舗装した一車線の田舎道を家に向かうときには左側に小川がある。
谷を下る水の流れは家の近くでは岩を食んで渓流然としているのに、
3つ4つの堰堤を過ぎると流れはゆるやかになって底の浅い小川に変じる。
左右にずんぐりとした山がつらなり、山肌は植林した杉や檜、あいまを埋める雑木に覆われている。
あたりは過疎の山村でまばらな民家の3軒に1軒は空き家のようだし、
道路脇の空き地はたいがいが放棄された畑で、灌木のまわりには猪がミミズを漁った後が残っている。
肘がぶつかるほど近くにいるのに、彼女の身体には触れられない。
彼女の息遣いがわかるのに顔を見ることができない。
けれど彼女はうりざね顔して、薄く整った唇をしている。
彼女はインドの女性のように小首をかしげて同意する。そのときの顎の線が悩ましい。
「ねえ、見て、あんなに大きなカラス」出会って2度目か3度目に彼女が言った。
頭をあげると道路の右端の電柱の上にニワトリほどに大きなカラスがいて、ぼくらを見下ろしていた。
漆黒の嘴に陽光が反射していた。電線にも数羽のカラスが止まっていて、
彼らは生き物というより黒い切り絵に見えた。
「わたしにとってカラスは瑞兆なの。いいことが起きる前触れみたい」
彼女が言うと、親分カラスが幼児が泣くような声でオギャアオギャアと鳴いた。
そのカラスは足を支点に身体を上下に振って声を出した。うつむいては声をため、首をあげて息を吐く。
ヨーガ行者のようだったし、空を威嚇しているようもであった。
「ね、同意してくれたみたい」彼女が言った。
霊的次元ではカラスは銀色に見える。
あの人たちにはお山の神さまのお使いのようなところがある。
私が死ぬとき、たぶん彼らはわたしの魂をつかまえにくる。
そうやって彼らといっしょに飛べたらいいな。
そういうふうにいう彼女は、遠い昔からの知り合いのように思えた。
| 美人生霊アイス | comments(0) | - | posted by YK
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